医薬品と因果関係が疑われる副作用を検出する手法の一つにシグナル検出があります。 まだ日本では日常的に利用されていませんが、WHO及びFDA、MRHAなどの海外規制当局では、 医薬品の有害事象データベースから重大な健康被害を引き起こす恐れのある医薬品と有害事象の 組み合わせを探す手段として既にこの手法を用いています。

シグナル検出の定義

シグナルとは、一般的には合図、信号という意味ですが、医薬品の安全情報に関しては少し違った意味で使われます。

WHO [1]はシグナルを 「reported information on a possible causal relationship between an adverse event and a drug, the relationship being unknown or imcompletely documented previously :今まで知られていなかった又は根拠が不十分であった 有害事象と医薬品の因果関係の可能性に関する情報」と定義しています。

シグナル検出については、久保田は「詳細調査が必要な自発報告の発見と調査の必要性の優先順位付け」と定義しています[2]。

シグナル検出の手法

シグナル検出には数種類の手法がありますが、ここでは藤田ら [3] の報告にしたがって、英国規制当局(MRHA)で用いられているProportional Reporting Ratios (PRR)を紹介します。

シグナル検出のもととなるデータは、医療従事者や企業から報告された有害事象情報から表1のように行に医薬品を列に有害事象を取り、 その報告件数を度数とする度数表です。表 1 における特定の医薬品と特定の有害事象に注目すると、 それらとその他という表 2 のような 2× 2 分割表ができます。 また、この表のもととなる確率は表 3 のように定義されます。

  有害事象1 有害事象2 有害事象p 合計
医薬品1
医薬品2
合計
  注目する副作用 その他の副作用 合計
注目する医薬品
その他の医薬品
合計
  注目する副作用 その他の副作用 合計
注目する医薬品
その他の医薬品
合計

定量的シグナル指標である PRR は、報告割合の比で、表4に示す 3 つの条件を満たす場合(閾値)に「シグナルあり」と判断されます。

  条件 定義
1 注目した医薬品と副作用の組の報告割合が、その医薬品とほかの副作用との報告割合の2倍以上
2 χ2は期待度数と観測度数のズレを表す数値で、χ2が4以上の場合は偶然起きたとは考えにくいと判断
3 注目した医薬品と副作用の組の報告数が3件以上

医薬品安全性情報評価への活用

現在、規制当局や企業では医薬品の副作用の分析は症例ごとに個別に評価されているので、 結果は評価者の経験や主観に 依存するという問題があります。シグナル検出などの統計的手法を用いることにより、 評価者に客観的な判断材料を提供することが可能になります。「相関ルール」の終わりの方でも紹介しましたが、 医薬品医療機器総合機構でも安全対策業務の中期計画目標の一つにシグナル検出を用いたデータマイニングの検討をあげており [4]、今後は日本でも副作用の早期発見のために シグナル検出が活用されていくことが期待されています。                               

参考文献

  1. WHO、Safety of Medicines -A guide to detecting and reporting adverse drug reactions - (2002)
  2. 久保田潔、自発報告からのシグナル検出、−英国MCA、米国FDA、WHOの新しい方法−、薬剤疫学、6(2)、pp101-108(2001)
  3. 藤田利治ほか、医薬品の副作用自発報告によるシグナル検出の実用化に向けての検討、厚生労働科学研究補助金(医薬品等医療技術リスク評価研究事業)分担研究報告書、(2004)
  4. 医薬品医療機器総合機構、データマイニング手法の安全対策業務への導入に関する検討について